Photography by Yukio Ohyama 大山行男(写真家)
インド四都物語〜知らない街を歩く〜
サイズ:縦222mm 横297mm
装丁:ソフトカバー 128ページ
定価:3850円(本体3500円)
2021年5月10日 初版第1冊発行
著者/ 大山行男
編集・構成・デザイン/ 佐伯剛
進行/ 萩原浩司
発行人/ 川崎深雪
印刷・製本/ 株式会社東京印書館
プリンティングディレクター/高栁昇
発行所/ 株式会社 山と溪谷社
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1丁目105番地
*下記の画像で、写真集の幾つかのページをご覧いただけます。
リコーイメージングスクエア 東京4月29日〜5月24日 大阪7月15日〜8月8日 詳しくはこちら→
摩訶不思議なる世界を彷徨う 大山行動
*写真集本文より一部抜粋
インド、インド。なんと謎めいた響きではないか。
一歩その地に足を運べば、迷路のような暗闇に吸い込まれる。
私が手探りで歩く富士の樹海もインドの街も、なんら変わることはない。
それらは摩訶不思議か、それとも無間地獄か。
嘆き、怒るを通り越し、沈黙に伏す人々もすべては樹海の森のようにリアルだ。はだかだ。現実だ。生きることに必死だ。
インドでは夜の街を歩くのが実になつかしい。
哀愁か、なぜなのかはわからない。自分自身の遠い記憶がよみがえるのか。
そう、それは初めてコルカタの空港に降り立ち、タクシー乗り場に向かったときのこと。薄暗い黄色の街路灯が、あわい夜霧とともにやさしく私を包み込んだ。まるで時が止まっているかのような家並み、古いビル……。なんと不思議な、そしてやわらかく、母のぬくもりにも似た心地よさ。
タクシーは真夜中のコルカタの街をすべるようにサダルストリートへ向かう。遠い記憶がすぐそばでささやいているような、なつかしく慈愛に満ちた街のたたずまいも人々も、すべての記憶がよみがえった。
「ああ! これだ」。そうだった。それは直感やひらめきとはまた違う安堵感。
やすらぎの街、心のふるさとへ戻ってきた。やっと戻ってきた。
現代社会が生み出す閉塞感、超過密時間に追われ、誰しもが疲弊している日本を抜け出してやってきた、インドの知らない街。そこであらためて思う。人はなぜ生きるのか。
冒頭に記した富士の樹海の木々のように、あるがままに生きる。
なにも無理することはないのだよと、気づいた。